ナマケモノ

文化人類学者・環境運動家の辻 信一さんが、NGOナマケモノ倶楽部の世話人をしている。 インタビューを読んで、ナマケモノが好きになった。

ナマケモノ中南米に住んでいるほ乳類です。 僕は10何年南米エクアドルで植林や森林を守る活動のお手伝いをさせてもらってきた。森林が伐採されますよね。 そうすると他の生き物たちはみんな逃げていけるんだけど、ナマケモノはあまりにものろいので、木を切られるとその場に出てくるんですよね。 森林が伐採されることのむごたらしさを、ナマケモノの受難に立ち会うことによってつきつけられました。


ただ、そんなひどい目にあっていても、ナマケモノの顔はいつもほほえみをたたえているように見えるんです。 僕の仲間がナマケモノのことを「森の菩薩」とよんだんですが、そのときに運命的な出会いを感じました。

ナマケモノメタボリズムが非常に遅く、1週間に1回くらい排泄をします。 猿なんかは木の上から排泄するんですが、ナマケモノは木の根元にちゃんと降りてきて根元に排泄します。 穴を掘って、そこに糞をして、中には葉っぱをかぶせて糞塚みたいなのを作るのもいるんですね。 コレは動作がのろいナマケモノにとってはとても危険なんです。天敵がいっぱいいますからね。 なんでこんなことをするのか、やっぱりバカだからか。 そうみんな思った。 でも、それは、違っていたんです。

高温多湿な熱帯雨林の中では、上から落とされた糞は、あっという間に分解されて、栄養は土の中には戻っていきません。 木には何の得にもならないわけです。でも、木の根元に穴をほって糞をすることによって自分がその木からとった栄養をちゃんと木に戻している。 これを知って感動しました。


僕たちは最初、ナマケモノのことをかわいそうだ、救ってあげたいなどと思っていました。 それが、だんだん、ナマケモノこそ人間にとってのお手本だと思えてきた。 じゃあ、「ナマケモノを救え」じゃなくて「ナマケモノになろう」という運動を始めよう、と。 それがナマケモノ倶楽部なんです。

僕らが知る限り、ナマケモノは他の動物たちにいっさい迷惑をかけない。 食べるものは葉っぱだけで、しかも栄養を返すことで、木を助ける。 究極の平和であり、究極の非暴力でしょう。


僕たちはいつの間にか、生存のためには、競争や暴力が必要不可欠だと思いこんでいるんですけど、それは単なる思い込みです。 僕たち人間だって、ちゃんと他の動植物と共生していかなければいけないし、もし共生できなかったら、結局は滅びるしかないんですね。


いろいろな動物がいますけど、一番暴力的なのは、「弱肉強食」という思いこみにとりつかれた人間ですよ。 生物の多様性が保たれてこそ、僕たちは生きていられるんです。 つまり他のいろんな種が繁栄していればこそ、僕たちも豊かで幸せになれる。

「儲かるか」「得をするか」「勝ち組になれるか」・・・ナマケモノの微笑むような顔を見ていると、そういう発想に染まった人間の方が不幸な生きものに思えてくる。 「ナマケモノ」という名前も失礼だよなぁ。 
とっても可愛いナマケモノの写真(INSPIRATION)