「成人病の真実」近藤 誠著 その2

成人病の真実 (文春文庫)
近藤 誠
文藝春秋
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「成人病の真実」近藤 誠著 その1

「無症状性脳梗塞」というのがある。血栓が細い血管にあり、麻痺などの症状が出ない。 福岡県久山村で死亡した住民の8割に解剖が行われ、13%に無症状性脳梗塞が発見された。MRIでの発見率は島根医科大の研究によると、40歳未満で0、40歳を超えると発見されはじめ、60歳代で20%、70歳異常で30%、平均は15%ということで、福岡県での発見率とほぼ一致。


無症状性脳梗塞を発見された場合、何か有効な脳卒中の予防法があるかというとない。 自分には小さな血栓が脳内にあるということを知っておくことがメリットかデメリットか。 この本を読む限りではデメリットが大きい。


未破裂状態の動脈瘤についても、後遺症に対する感覚が脳外科医と患者の間に差があり、それが医療事故や病院とのトラブルの原因になっている。 脳ドック学会の重鎮とされる端 和夫・札幌医科大脳神経外科教授は「(動脈瘤の)手術の安全性も高く、熟練した麻酔医と脳神経外科医のいる施設であれば、手術の危険は、特別な事情のない限り1%以下と考えてよい。」と述べている。未破裂のものを放置しておいた場合、動脈瘤の破裂率は年間1〜2%といわれている。 手術の危険のほうが低いならと手術に踏み切るのも無理はない。 だが医者のいう「安全」を鵜呑みにするのは「危険」だ。


信州大学脳神経外科小林茂昭教授は未破裂脳動脈瘤のクリップ手術310例について、死亡1人、fair(まずまず)17人、good(良好)30人、execellent(すばらしい、この論文での定義は神経学的な症状を残さないとなっている)262人と報告している。 未破裂の動脈瘤ということなので、患者本人はもともと症状の自覚がなかった、そして手術後も後遺症のない状態でいる人は310人中262人ということ。 good(良好)とはこの論文によると、目を動かす「動眼神経」の麻痺、マイルドな「半身不随」、マイルドな「視力障害」など神経機能の欠落があるが自力で生活することが可能な状態を指す。 これを「良好」と呼ぶのが脳外科医の感覚かと驚いていたら、fair(まずまず)にいたっては自力生活が不可能な障害が残ることを指している。 goodとfairの両方を足すと、後遺症は全体の15%に及ぶ。 ちなみに小林教授は海外の脳外科医から賛辞をおくられている「名医」らしい。


脳ドックが普及しているのは日本だけと書いてある。この本が出版された2002年の数字だと思うが、日本の脳外科医は約5000人、人口が倍の米国に約3200人。 脳外科医が多すぎるゆえの検査過多なのか。

人は、せめて脳だけは死ぬまで正常でありたいと願う。 それは当然の願いでわたしにもあります。 しかし残念ながら、脳血管の老化を防ぐことは難しい。 脳卒中の予防が絵に描いた餅だとすれば、脳卒中にかかることもありうると観念しながら暮らすしかない。 しかしそれは、動脈瘤脳梗塞の存在を指摘されるより、はるかに気楽で安全です。


著者は「脳ドック」ならぬ「ノー(No!)ドック」で行こうという。 賛成。


他の章も勉強になった。インフルエンザ脳症は薬害であるとして、厚生省と研究班の姑息な詐術が詳細に述べられている。 インフルエンザワクチンやガン新薬への警鐘、ポリープはガン化しないなどデータを示しながら丁寧に解説されている。


日本人はあまりにも病院を信じすぎていると思う。 厚生労働省の言うことも、検査結果の数字も、マスコミが絶賛する医師も素直に信じすぎてはいけない。 立派な医者もいると思うが、私は基本的には病院に近寄らないような生活をしたい。 上岡龍太郎が「病院なんか行くから病気になるんや。」と言ったらしいが、ほんとにそう思う。