「もう牛を食べても安心か」 福岡伸一著

もう牛を食べても安心か (文春新書)
福岡 伸一
文藝春秋
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すごく刺激を受けた。 狂牛病についてもわかりやすく解説されているが、シェーンハイマーが名付けた「動的平衡」にも魅了された。

食べた食物は瞬く間に、分子のレベル、ひいてはそれ以下のレベルまで分解される。 一方、安定なはずの内燃機関たる生物体もまた驚くべき速度で常に分子レベルで解体されている。 そして食物中の分子と生体の分子は渾然一体となって入れ換わり続けている。 つまり、分子のレベル、原子のレベルでは、私たちの身体は数日間のうちに入れ換わっており、「実体」と呼べるものは何もない。 そこにあるのは流れなのである。


健康な体とは「流れの良い体」なのだ。 人間の体にとって受け入れやすい、入れ換えがしやすい食べものと、解体に時間がかかり、内臓を疲弊させる食べものがある。 消化器に一番負担をかけないのは「果物」だろう。 果物自身の持つ酵素があるため、胃を通過するのに30分程度ですみ、水溶性食物繊維なので腸を刺激しない。 人間が体内でビタミンCを作れないのは昔果物を常食していたためではないか、という説も読んだ。 


肉や魚を食べることを「たんぱく質を採る」ように思いがちだが、人間は他の動物の肉を食べてもそれをそのままたんぱく質として利用することは出来ず、アミノ酸に分解することが必要だ。 そのための消化に3時間も4時間もかかる。 「消化」という活動は体にとって大きな労働であり、昼に魚料理、夜に肉料理のような生活を毎日続けることで消化器系の内臓は文字通り24時間労働を強いられる。 体は疲れ、「流れの良い体」から遠ざかっていくのではないだろうか。


プリオン仮説への疑問や日本での狂牛病全頭検査緩和批判など、どの章も丁寧でわかりやすい。 シェーンハイマーの動的平衡もこの著者の説明があったからわかったけど、1955年に出された本人の著作を読んでも理解できたとは想像しにくい。 福岡伸一氏の本は全部読みたくなった。