「生命と食」 福岡 伸一著

生命と食 (岩波ブックレット)
福岡 伸一
岩波書店
売り上げランキング: 30707

  • 食の安全をどう考えるか

食品添加物については、どのように考えればよいでしょうか。 食品の風味や外観をよくしたり、保存性を高めることのできる食品添加物は、低価格を維持し、広く流通させるのに必要とされていますが、食品本来の分子ではないので、人間の体に入ってからは、必要のないものです。 それどころか、動的平衡状態の維持に役立たない不要な分子は、それらを無害化したり、分解したり、体外へ排泄したりするために、人体に余分な負担をかけます。


添加物は、人体に急激な悪影響を及ぼさないレベルなら加えてよいことになっていますが、長期的に摂取を続けて生じる問題、複合的な作用については、誰もきちんと調べていません。


たとえば、ハムやソーセージ、サンドイッチ、弁当などに広範囲で使われている、ソルビン酸という保存料があります。ソルビン酸を添加すると、どうして食品が長持ちするかというと、ソルビン酸は乳酸に似た、おとり物質として働くのです。 乳酸は生物にとって、とくに雑菌などの微生物にとって、重要なエネルギー源です。 多くの雑菌は、ソルビン酸を乳酸と間違えて取り込みますが、乳酸と違って余計な尻尾が付いているので、代謝ができなくなり、酵素反応系がブロックされてしまいます。 これが、菌の増殖を抑制する静菌作用です。 ソルビン酸は人間の細胞には直接的に影響しないとされていますが、雑菌を制圧するくらいならば、腸内細菌も制圧するということになります。 腸内細菌は、人間が食べものをかすめ取って増殖している菌ですが、腸内にある種のコロニーを形成することで、もっと凶悪な菌がやってきたとき、それらの菌が増殖できないようにするという役割を果たしています。 


腸内細菌も強いので、ソルビン酸によって少々制圧されても、また元に戻りますが、ずっと何十年も負荷を与え続けられれば、当然、変質していく可能性があります。 凶悪な菌にやられてしまう脆弱さが出てくるかもしれません。


数日間の腐りづらさと、とりあえずの安全性だけを求め、時間を忘れている食品添加物の使用も、人間の部分的思考に基づくものにほかなりません。

先日読んだ「食品の裏側」(安部 司著)は期待はずれだった。 あの本を読んだ後、読者の行動に何か変化があるだろうか、と考えてしまった。 食品添加物そのものの危険性についてより、「上手に利用しましょう」のようなニュアンスを感じた。 


この「生命と食」は岩波ブックレットの薄い小冊子のような本だが、中身は濃い。 食品添加物が良いものではないと多くの人が思っているだろう。 それは「戦争が良くない」みたいな当たり前のこととして受け入れられていると思う。 では、添加物にNOという生活を私たちは志向できるだろうか。 食品添加物というビジネスジャンルがあり、従事する人が多くいて、私達は添加物があるから成り立つ食品に囲まれて暮らしている。 


ハムやソーセージは添加物がたくさん使われている食品の一つだが、天然の材料のみで作ったものを買うとなるととても高い。 本当は高いのではないと思うけど、スーパーやコンビニで売られている添加物を多用したものと比べてしまうから、すごく高く感じる。 自分で作れば、手作りソーセージ等を買うより安くつくが、めんどくさい。 買った方が安いし早い。 食べものにかける手間ひまをもったいないと思ってしまう。 梅干しなども作れば大変手間がかかるけど、スーパーに行けば200円ぐらいで買える。 梅干しが出来上がるまでの手間ひまを時間で換算すればとても200円では済まない。 10倍も100倍もかかるように感じる。 


本来の手間ひまを10分の1、100分の1にしてくれる便利なものが工場における大量生産であり、食品添加物なのだ。 一度手にした便利なものを手放すのは難しい。 手放した方が良いと思う人がいても、そう思わない人もいる。 体に良い食べものを求める人も増えているが、選んでいられない人も増えている。