社会的擁護に関する連載 その3

愛着という絆 「普通」が育む自尊感情

産経新聞

愛着とは乳幼児期に母親など一人の養育者と結ばれる強い絆のこと。愛着障害はその絆が築けなかったことから、対人関係を作る能力に障害が生じてしまう。


 男児の姉は生後4カ月のとき、父親の暴力により頭の骨を折る大けがを負った。母親は育児放棄し、男児児童相談所の介入で里親宅へ身を寄せた。1年後、急速な改善を見せた。


 杉山医師は「里親の家で何があったのか。普通の子育てです。愛情をもって育てられる中で、子供に『自分は価値があるんだ』という自尊感情が生まれた。自信を持った顔つきになっていった」と話し、こう続けた。


 「逆に、愛着者から急に引き離された乳幼児は無反応になり、たとえ十分な栄養が与えられていても心身の発達が著しく遅れる。免疫機能の低下まで生じ、死に至ることさえある。子供にとって、愛着関係はそれほど重要なのです」

 

◆7割が大人数制

 「一人の養育者」は施設の保育士や児童指導員であってもよい。だが、わが国の児童養護施設は欧米と異なり「大舎制」と呼ばれる定員平均45人の大人数制がいまだに7割を占め、一方で国の職員配置基準は昭和54年から32年間増やされていない。


 京都府立大学の津崎哲雄教授(61)=児童福祉学=は「欧米は里親が主流で施設も小人数制ばかりなのに、わが国では近年、虐待対応が進んで親から引き離される子供が増え、逆に施設がどんどん建設されている」と指摘する。厚生労働省によると平成22年、全国の児童養護施設は575カ所で5年前から17カ所増えた。乳児院は124カ所で7カ所増加した。


 津崎教授によれば、欧米の研究者は日本の施設を欧米流に「児童ホーム(チルドレンズ・ホーム)」と呼ばず、「孤児院(オーファネージ)」と表記する。規模の大きさと職員の少なさから、自国の施設とは異質なものであると考えざるを得ないためだという。

◆国内初の「村」

 施設と里親のよさを組み合わせたような「村」が昨年4月、わが国で初めて福岡市にできた。玄界灘の近く、親に恵まれない子供が里親と暮らす「子どもの村福岡」。オーストリアに本部があるNGO(非政府組織)が132カ国で展開してきた村の日本版である。


 里親は「育親」と呼ばれ、NGOの原則では愛着の観点から独身女性が一人で務める。福岡では40〜60代の女性3人と夫婦1組が、1歳から6歳までの男女8人を数人ずつ、それぞれ一戸建てで育てている。里親手当などの公金のほか村を運営するNPO法人から月16万円の生活費が支給される。保健師の資格を持つ女性職員が常勤し、臨床心理士や医師らが定期的に訪れて専門的に支える。


 NPOの大谷順子専務理事(76)は「村の特徴は『愛着の絆』と『永続的な支え』です。乳幼児期からの育て直しが重要であり、また18歳になったから自立しなさいと切り離すようなこともない」と話す。


 開村8カ月の昨年12月、20代の里親女性が村を去った。結婚が理由だった。


 福岡市の児童相談所「こども総合相談センター」の藤林武史所長(52)は「運営する中で出てきた課題を解決していくことでより豊かな養育環境が整えられる。子供にとって受け皿の選択肢が増えるのはよいことだと思う」と見守る。

子どもの村 福岡 のホームページ
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