社会的擁護に関する連載その4

「愛伝える」社会的責務 タイガーマスクの裏に
【救いは差し伸べられるのか】(4)
産経新聞

東京都に住む山田翔太さん(21)=仮名=は小学6年の秋、母親(41)による身体的虐待の末に保護された。
「あんた、何でうちにいるの」。離婚してキャバクラで働いていた母親は、何かが気にくわないときや体調がすぐれないとき、そう言って息子を殴った。 「フライパンで頭を殴られたときは持ち手が曲がって気を失った。ボールペンを太ももに半分まで刺され、出血が止まらず『俺、死ぬのかな』と血だまりを見て思ったこともあった」


小3からたばこを吸った。家出した。万引もした。児童相談所は素行に問題があるとして、児童自立支援施設へ入所させた。社会的養護が必要な子供のうち非行少年を対象とする施設で、平成22年時点で全国に58カ所あり1545人が生活する。


山田さんは「虐待されたから非行に走ったわけではない。施設ではカウンセリングを受けたし箱庭療法もやったが、結果がどうだったかは分からない。『心の傷』をケアしてもらった感覚もない。虐待を受けても自力で頑張るしかないのでは」と話す。

社会的養護を必要とする子供は現在4万7千人。虐待を受けた子供や知的障害、発達障害のある子供が増え、背景は複雑になっている。国はようやく、施設の職員配置や子供が居住する面積の基準について見直しを始めた。

 
伊達直人」たちも後押しした。昨年暮れから施設へ匿名でランドセルが贈られたタイガーマスク運動をきっかけに、厚生労働省は1月、社会的養護の課題に関する検討委を設けた。


委員の渡井さゆりさん(27)は、小学2年から高校卒業まで母子生活支援施設と児童養護施設で育った。社会的養護の当事者がもっと声を上げようと18年、都内で仲間とNPO法人「日向ぼっこ」を作った。施設出身の若者が家庭のようにくつろげる居場所を運営し、悩みごとの相談に乗っている。


検討委でこう訴えた。


「施設へ来た理由や虐待されたことを子供は子供なりに解釈し自分が悪かったのではという思いを持っている。そういうゆがみを、信頼できる養育者ときちんと話し合い『私たちがあなたのことをとても愛して、大切に育んでいるよ』と社会的養護のもとで伝えられるよう、職員の体制を充実してほしい」

児童自立支援施設で暮らした山田さんは5年ほど前に施設を出た。将来への不安から「日向ぼっこ」で進学支援を受け、定時制高校へ入学したものの、中退した。現在は飲食店で働いている。


渡井さんは山田さんについて「いい大人との出会いがあってほしい。兄貴的な人がいればと思う。人を傷つけたり裏切ったりしたときに相手が悲しむということへの感覚を身につけてくれたら」と話し、こう続けた。


「この人のことを裏切ってはいけないという人が、彼にもできればと思う」


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渡井さゆりさんが書いた本は少し以前に読んだ。 傷ついた人が自分の傷をこじあけるようにして書いた本の重みに涙が出た。 なぜこんな目に遭うのか。 なぜ大切にしてもらえないのか。 


それは大人も同じだろう。 大人も大切にされていない。 生きる喜びも感動もなく、ストレスと不安と日々の生活から逃げ出したくなる衝動にもまれながら延命している。 が、子供を傷つける理由にはならない。


児童虐待は「暴行罪」であり「傷害罪」であって、しつけの延長ではなく、まわりが立ち入れない部分であってはならないと思う。 現実には児童相談所では防ぐ事が出来ない。 今この瞬間にも家庭内での犯罪が起こっているかもしれない。
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