谷川 俊太郎さんの詩 「未来へ」

未来へ                 谷川俊太郎



道端のこのスミレが今日咲くまでに
どれだけの時が必要だったことだろう
この形この香りは計り知れぬ過去から来た



遠く地平へと続くこの道ができるまでに
どれだけのけものが人々が通ったことだろう
足元の土に無数の生と死がうもれている



照りつけるこの太陽がいつか冷え切るまでに
目に見えないどんな力が働くのだろう
私たちもまたその力によって生まれてきた



人は限りないものを知ることはできない
だが人はそれを生きることができる
限りある日々の彼方をみつめて



未だ来ないものを人は待ちながら創っていく
誰もきみに未来を贈ることはできない
何故ならきみが未来だから